2009.07.11 Saturday
土井川まりインタビュー
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2009年3月15日、土井川まりさんに、下北沢フェアグラウンドの壁に絵を描いていただいたのですが、そのとき実はインタビューもしていました。文字起こしが途中のまま、止まっていたのですが、まりさんがもうすぐ下北沢を離れてアーティストインレジデンスの活動に入られる、とのことなので、えいやと文字起こししました。
このインタビューは、もうインタビューしただけでお腹いっぱいになってしまい、いたづらに文字起こしをする気力も失うようなものだったのですが、今このタイミングで読み返すと、非常に考えさせられる、大事な言葉の集積のように思います。
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小さい山の頂上に登った感じ
土井川まりインタビュー
----今回の作品は、アルファベットのFとGをまず先に置いたところから始まっているようですが、どういう感じで周囲の図柄を考えていったんですか。
土井川 まずとりあえず額縁かな。テーブルの配置に合わせて、額縁が3枚並ぶようにできるといいという話だったから、まず四隅をとりあえずキープして、隅にはまる感じで文字を入れようかなと、額縁の縁にはまる感じで。それだけ最初に決めてきて、下描きで四隅を決めてから描き出したんですけど。文字を中心として、そこから。隅の位置が決まっていれば、その他の部分は自由にやっても、最終的に、カチッと見えると思ったから。最初に決めたのはそれだけですね。その後は、なんだろう?
----このへんとか、花びらが飛んでるんですかね、そよ風が吹いていて。
土井川 どうしても流れを作りたくなる気持ちがあって、「春」のイメージって言ってたから、多分花が出てきたんだけど・・・。何か自分で描いたのに「多分」とか言っちゃうんだよね(笑)。何でなんだろう、こうだからこうしましたって言えないんだよね。
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----描く様子を見ていて、植物がモチーフだからっていうのもあるんですけど、どんどん自然に生えて行ってる感じがして、シミュレーションが目の前で行われているみたいな。そういう風に見えるのがとても不思議でした。とくにツルのところがすごく自然に伸びていくところを見てドキッとして。あれは何でしょう。意識というより、身体が描いているんだろうかっていう感じで。
土井川 何だろうなぁ。なんか出てくるんだよね。こういうのがなんか縁から始まって、あっちに続けようという気持ちがまずあって、まず上に行こうと思って。
----ツルの巻いているところが、とても無理のない感じで流れていくのを見て思ったんですけど、それぞれの角度とワンクッション置いているところが非常に気持ちの良いところに収まっている気がします。下描きとか全然しないですよね。それがすごいなぁと思って、ラフとかも描いてないんですよね。
土井川 下描きしても意味がないんだよね。結局それをなぞるから。
----昔から下描きはしてないんですか。
土井川 しないですね。
----じゃあもう頭の中にイメージがある感じで。
土井川 いや、そういうわけでもないですね。そういう最終的な完成形っていうのがないから。それが頭にあるとそれに近づきたくなるから、下描きをするのかなと思うんですけど。でも別に無いし。無いっていうか、何かこう、こうしたいっていうイメージが決まってないまま描くから。
----「うわ、こんなのできちゃった」と驚くときもあるんですか。
土井川 うん、ありますね。
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----絵を描いているときってどんな気分なんですか。
土井川 うーん、なんて言ったらいいのかなぁ。何かこう、子供が砂場で遊ぶような感じ。あと、これだけ大きな絵を今回描いた中で思ったのは、メキシコの壁画家で、フリーダ・カーロの夫のディエゴっていう人がいるんですけど、すごい女ったらしで、でもものすごい壁画を描くの。で、それが何て言うか、エネルギーの問題なんだっていうのが、ちょっと分かった。その女ったらしのそれだけの情熱と、大きな絵が描ける情熱ってイコールなんだろうなあ、みたいな。あとピカソのゲルニカが、なんであんなに大きくなくちゃいけなかったのかと言うのもちょっと分かったような気がした。
----なんであんなに大きくなくちゃいけなかったんですか。
土井川 何て言うんだろう。あの表現したいものがあれくらいの大きさでないと見合わない。これくらいのものを表現するためには、こんなキャンバスじゃ間に合わないよ! みたいな。ものすごいでっかいんだけど、たぶんあれでも足りなかったんだろうなぁと。そんな感じがちょっとした。わりとこう集中しているというよりも、くるくるといろんなことを考えてる。
----途中でいったん小休止を置いたときは、3つの部分がポツポツとある感じだったけれども、最終的にすごくまとまりのある感じになりましたね。壁画っぽい。それこそゲルニカみたいな。
土井川 そうですね。
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----真ん中のあれは何ですか。
土井川 えー、何だろう? うーん、「中心」。なんかここから全部出ていて、全部ここに行くみたいな。
----左右対称なようでいて、そうでもないですね。
土井川 そうですね。それは私の好み。
----蝶が出ていますね。蝶の巣だったりするのかな。
土井川 んー、何だろう。
----こっちが蝶で、あっちが実でしたっけ、なんか胞子みたいな、塊から出ている。
土井川 何だろう、花粉かな?
----花粉(笑)
土井川 なんか、ピューって、春の風? 風が強い感じ。何かこう、擬音が頭の中に浮かんでたりする。ピュー、とか。モクモクとか、そういう感じ。線て擬音なんだよね。ビュー、とか。少年マンガの後ろに描いてあるような、ガガガガとか、ああいう感じ。ああいうことを思いながら描いているときもある。ガガガガっていう音が頭の中に聞こえて、そのガガガガを表現するとしたらこんな感じかな、と。
----そういうのって今これを見て、このときこんな音だったよな、とか鮮明に思い出せるものなんですか。
土井川 うん、だいたい、わかる。
----たとえばそのツルのところだったら、どんな音がするんですか。
土井川 これは何か、シュルシュルとビューのからまり具合。ヒュルヒュルっという感じ。
----こっちのグルグルのときもすごい印象的だったんですけど。すごく楽しんでいるような。
土井川 うん、楽しいんだよね、グルグルと描いてると。何かペン先が当たるのって、楽しいな、という感覚がまずあって、特に今回壁に直接描く形だったから、なおさら楽しくって。
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----絵を描くのは、コミュニケーションしたいから描くんですか。周りに影響を与えたいとか、何か感じ取ってほしいとか、そういう気持ちがあって描くようなところはありますか。
土井川 何だろう。それは私個人がってことだよね? どうなのかなぁ。
----絵を描くのは、絵を通じて人と関わりたいという気持ちがあるからではないですか。
土井川 うーん、何よりもまず、ペンが紙に当たっているのが好きなのね。それで、そういう行為をしたいという気持ちがまずあって。コミュニケーションか・・・。この絵に関して言えば、たくさん遊んだっていう感想(笑)。結構、ここはお店だから、気は使ったんですけど、でも、最終的な感想は、遊んだなぁていう感じ。
----お店だから、お客さんが来るから、こうしたっていうのは特になく。
土井川 あー、お客さんのことは考えなかった。何かこう、丸投げ。
----お店だからこうなったけど、友達の部屋の壁に描いてって言われたら。
土井川 ちょっと違うと思う。そこは多分、あまり意識せず意識しているんだと思う。ってことは、意識しているのかな? お客さんて不特定多数の人じゃん。私にとっては他人で。だから、特定の誰かに描くっていうのとはちょっと違う。べつに、不特定多数の人に私の想いを分かってほしいということは特に無く。どう思ったか聞きたい、というのは少しあるけれど。
----こういう感じの絵を描くようになったのは、いつ頃からなんですか。
土井川 いつかな、多分5,6年前?
----そんな最近なんですか。
土井川 こういう絵って、でっかい絵っていうことだけど。ライブペイントとか。
----こういう抽象的な感じ。
土井川 画風? それはたぶん10年前とかじゃないかな。
----抽象画を描く人って、ピカソとか、最初写実的な絵を描いていて、あるときを境に、モチーフを集めたような絵になったりするじゃないですか。まりさんの絵はすごく繊細だけど、非常に抽象的な絵に思うのですが、もう少し写実的な絵を描いていた時期はあったんですか。
土井川 もともと絵は好きだったんだよね。わりと絵が上手くって、「絵が上手いまりちゃん」っていう評判とか、小学校の頃なんかはそういうのがあって。でもいきなりある日突然こんな風になったわけではなく、何でだろうなあ。曼荼羅とか好きだったんだよね。
----小さい子が描く絵って曼荼羅っぽいですよね。
土井川 うん、何か好き。西洋の教会の天井とかね。それを真似して描いてて、で、今に至る、みたいな。
----曼荼羅を見たきっかけは?
土井川 なんだろう。図書館で見かけたんじゃないかな。うわー、なんかムズムズする! みたいな。今でもそんな感じになるんだけど、なんか好きでムズムズする。それは説明できないんだけど、ムズムズとしか言えない。
----曼荼羅って、インドの宗教をぜんぶ盛り込んでいるんですよね。
土井川 本当は何か意味があるみたいだけど、私はそういうのはあまり興味がなくて、ただ均一に細かく並んでいるのが、好きなんだよね。みっしり並んでる状態を見るのが好き。好きとしか言えないんだけど。
----ちょっとお店だから気を使っているけれども、もし際限なく、壁を全部埋め尽くすまで描いてもいいよと言われたら、本当に埋め尽くしちゃう?
土井川 うん、「やったー」って言いながら。3日くらいかかると思うけど。
----見る人がどうのっていうよりも、描くのが楽しいって言ってたじゃないですか。たとえば、ヘンリー・ダーガーのような人はいますけど。あの人みたいな一生でもいいんですか。
土井川 うん、情熱が続けば。
----あの人は人に見せるとか一切考えなかったんですよね。
土井川 いかに自分の描きたい女の子のポーズが描けるかをずっと死ぬまでやってたんだよね。
----女の子も、もはや女の子じゃないですよね。
土井川 描きたいポーズを描きたいから。そのために養子をもらう申請をして、断られたりとかもして、それくらいの執着と情熱が続くのっていいよね。
----人と関わりたくて描いてるんじゃないですよね。
土井川 見られたらおしまいって言ってたね。
----まりさんはそれに近いですか。
土井川 いや、そんなこともない。描き終わった作品にそんなに執着がないから。
----例えば、誰かが欲しいって言って買ってくれたら嬉しいですか。
土井川 うん、嬉しいけど、でもびっくりする。えー、欲しいんだーって。欲しいのにびっくりするし、買ってどうするんだろうと思う。買ってくれた人は喜んでいて、額装して飾ってくれたりしているんだけど。
----欲しいって言ってくれる人がいることがモチベーションになって描く人もいるじゃないですか。
土井川 あー、それは別。根が別。
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----さっき女好きと壁画の話をしてましたけど、日常生活と、こういう絵を描くことはどういうふうにリンクしていますか。普段堅い仕事をしているから、反動で描く人とかもいますよね。描くために働いている人とかも。
土井川 反動じゃないな。何だろう、つじつま合わせ? もしくは、何て言うか、はみ出た部分の処理みたいな。
----ふだんの自分の生活に、ちょっといびつに感じるところがあって、そのいびつな部分を整えるとか?
土井川 うーん、ふだんの生活は、すごく整然としているんですよね。何だろう、何か、コップに目盛りがあって、ちょっと余ったら足すみたいな。あ、今日これくらい余ったなあ、と。じゃ、ちょっと足しておこうかと。なんか足す感じがするな、どちらかと言うと。
----じゃあ、差し迫って描いているわけではない。
土井川 うん、何か足してから寝ないと気持ち悪い、みたいな。
----描かなかったら、ダメにならないですか。
土井川 たぶん最終的に、ちょっとの誤差が積み重なって、身体の調子を崩して、ガンになったりとかするのかもしれない。でも、そんな大それた感じじゃないんだよね。この日常に対して怒りをとか、そういうのは全然ないんだよね。
----一定のクリエイティビティが自分の中にあって、今日はわりとちゃんとクリエイトしたからスッキリとか、今日はまだ使い切ってないとか出しきってないとかいう感じなんですかね。
土井川 クリエイティブ・・・・ねえ。そういうのでもないような。
----絵のほかに吐き出せることってありますか
土井川 わかんない。それが分かったら、そっちでいいやってことにもなるかもね。
----クリエイティビティっていうか、「元気」みたいなものですかね。元気があって、その元気を使ってこれだけ描くけど、すごく仕事が忙しくて、元気がなかったら描かないとか。
土井川 んー、そうでもない気がする。
----筋トレしたほうが元気になったりするとか。
土井川 いや・・・、歯磨きみたいな感じ。歯は磨くじゃん。「あ、歯を磨かないんだー」って普通の人を見て思うような感じ。「歯を磨かないで寝れるんだー」って。例えだけどね。
----まあほとんどの人は、絵を描かないで寝ると思いますけど。
土井川 まあね。でも私はそういう感じかな。
----毎晩絵を描いてるんですか。
土井川 うん、毎晩、毎朝。
----毎朝! 朝早く起きて、描いてから仕事に行くんですか。
土井川 うん、それはもう普通。
----それは、今月のスケッチブックみたいなのがあって、1枚1枚日付が入って毎日書き溜めていくかたちですか。
土井川 んー、常に描きかけの絵があるからその続きを。1日で1枚の絵を描くわけじゃなくて。そういうときもあるけど。
----描きかけの絵って常時何枚くらい?
土井川 3枚くらい。
----それは何日くらいで完成するんですか。
土井川 いろいろ。いろんなのが平行している。でっかくて細かいのと、普通くらいのと、ぱぱっと描いちゃうのと、何個か。何個かあると楽。
----それは別に発表するあてもなく。
土井川 あったりなかったり。いっぱいあると楽しいなって。いっぱいあると、それぞれの比重が減るから楽だな、と。作家の人が自分の日記をエッセイで出しつつ、長編の重い作品を書いたり、雑誌の連載でこんな街に行きました、というのを書いたりするのと似ている。出口がいっぱいあると楽。軽い絵と、すごく個人的な大きな絵。時間のかかる、長期旅行みたいな。あと、完成が見えている絵と。比重がいろいろな絵があると楽。その楽っていうのは、どの出口からでも出せるから安心、ていう感じなんだけど、その出せるっていうのが、何を出したいのかは自分でもよくわからない。
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----絵を描いていて、自分で次の課題を作っていったりするんですか。
土井川 うん、それはちょっと意識的に。
----いまだとどんな課題が。
土井川 いまだと、ペン画でちょっと新しいモチーフを描いたりしていて、それは「軽くて抜けた絵」っていうのをやっていて。銅版画の方でもまた別のテーマがあって。ベクトルがばらばらでそれぞれにテーマがあるっていう感じかな。
----軽くて抜けた絵ってどこから来たんですか。
土井川 なんか、軽く抜いても、画面が持つようになったというのに自分が気づいた。結構描き込み勝負みたいなところが昔からあって、描き込むのが好きっていうのもあるんだけど、描き込んだ重圧で、すごいって言わせるみたいな感じだったんだけど、わりとこう消去法で、ここを消してここを消して、ここの表現だけでも、画面持たせられるようになったなあ、と。それって方向転換とかいうわけでもなく、私の中での進歩。
----あの、音を埋め尽くしていたノイズのミュージシャンが、やり続けてどんどん音数が減っていって、最後すごいシンプルな歌モノになっちゃう、みたいな人が多いのですが、それと一緒ですかね。
土井川 あ、そういうこともやろうとしているし。でもノイズもやめないよ。ノイズ欲は、そっちの方面でやる。歌モノもやる、「おおっ、こっちもいけるぞ」って思いながら(笑)
----両方あるとバランスがとれていいですよね。
土井川 そうそう。
----でもどっちもできるのがうらやましいです。ふつうどっちかになっちゃうから。
土井川 ずっと描いてきて、小さい山の頂上に登った感じはあって、そうすると道が2つ出てきたことがわかって、っていう感じかな。
----でも引き出しがあったってことですよね。
土井川 どうなんだろう。
----たとえばその人がすっごい歌が下手だったら、歌モノにいけないと思うんですよ。でも歌ってみたら上手かったって、そういう素養があったってことなのかなと。
土井川 あー、でもなんか自分がうまくできることばかりやろうとするんだよね。自分ができることをやりたいの。私だったら細かい絵を描けるから、ずっと細かい絵を描いちゃう。
----この前、時間感覚の話をしていて、最近の人たちはみんな急ぎすぎているんじゃないか、とか。朝、自動改札でピッていうのがエラーになったときに後ろの人がすごい形相でにらんだりするんだけど。まりさんはすごく独特な時間感覚があるように感じるんですけど、そういうのって、絵に影響していますか。
土井川 わかんないなあ。
----僕もどっちかっていうと、ゆっくり動く方で、周りからよく心配されるんですけど、そんな僕でも、まりさんを見ているとときどき心配になるんですが(笑)。そこがすごくいいんだろうなと思うんだけど。昔からそんな感じでした? それともあるとき何か達観して今みたいになりました?
土井川 いや、昔からこんな感じだと思う。なんか、マイペースって、普通だと思うんですよね。なんか「マイペースだねー」って人から言われると、「え? 何それ?」って思う。ペースが自分のものじゃなかったら誰のものなんだろうって思う。
----だけど、普通の人って、周りに合わせないといけないって思ったりする人って多いと思うんですよ。まあ、もちろんペースは自分にありたいと思うんですけど、結構それって勇気のいることで、それよりも人に合わせたりとか、流行を追ったり、同じことをしたり、同じリズムで動いたりした方が周りになじみやすいから、そういう風にする人って結構多いんじゃないかなって。
土井川 あー、気にしてないかも。
----でも合わせた方が楽だし、合わせないと軋轢が生まれることもあるじゃないですか。
土井川 軋轢?
----あまりないですか。
土井川 合わせた方が楽になる感じがあまりしない。合わせた方がちょっと辛そう。だから合わせないのかもしれない。べつに勇気がいるとか、勇気がいるように思えるかもしれないけど、辛いことはするもんじゃないと思うんだよね。たとえば、もちろん私がこうしているのは、辛くないからこうしているんだけど、特に何か意思があるわけではないです。
----そういう感じと、さっき言ってた、描く時にまず指先が気持ちいいから描くっていうのは重なるような感じが。
土井川 どのへんが?
----自分の心地よさを第一にする感じ。
土井川 あー、そうかもね。何を重要視しているかってことなのかな。
----ただ、まあ自分の気持ちよさとかを重要視したときに、単なるわがままなきかん坊になったりすると、周りに迷惑なだけなんだけど、それをつきつめていって、こういうふうに人を感心させるような絵を描けるのって、周りに対していい影響を出せて、すばらしいことだな、と思います。
土井川 そうかあ、それはなんだろう、偶然じゃないかなあ。
----毎日絵を描くのっていつごろから続けているんですか。
土井川 8年前くらいからかな。
----それまではあまり描いてなかったんですか。
土井川 んー、出口が絵だってわかってなかったかも。普通に音楽とか、読書とか、あまりアウトプットっていう感じじゃなかったかも。
----将来こんな風になりたいとかこんなことしたいとかありますか。
土井川 それはわからない。結構人が決めるから。
----望まれるがままに。
土井川 うん。
----でっかい立体を作りたくなったりしませんか。
土井川 うーん、描く行為ができていればいいかな。目標とかそういうのは、私の中に全部あるから。人から見えないところにあるんですよね。ただ闇雲に描いているわけでもなく。さっき言ったように、山に登った、登りきった、みたいな。だから何か、その将来的にやりたいことが、とか聞かれると、何とも言えないんですよね。私の中だけの問題だから。それを周りの人が見て、じゃあCDジャケットにとか、いろいろ言うけど、それはまあ、「ふうん」ていうだけで。そういうのと、私の中での絵を描く上でのいろいろな葛藤みたいなものとは全然別のところにあるものだから、「ふうん」としか言えない。
----自分の中でその山を登っていく感じっていうのがあって、ただそれを着実にやっていこう、と。
土井川 で、いろいろな人が何か言う。展示やろうぜ、とか、でもそれはそれ。私の中の山とは別問題。
----今登れてる感じですか。
土井川 うん、登れてる。
----それも、さっき言っていた、自分のペースがまず大事、っていうことなのかな、と。
土井川 うん、軸の問題っていうか。
----その軸を育てるにあたって、栄養みたいなものを与えたりしますか。映画を見るとか、本を読むとか。
土井川 いや、うーん、それはなんか、栄養? 外から栄養を取り込むってことはないですね。それは栄養じゃない。それは娯楽だね。栄養かあ・・・なんか、生きてることとか、そういう感じ。そういう考えと同じ場所にあるから。いい映画見たから、それをアレンジして、とかそういうのじゃないよね。自分の命が、とか、そういう場所にあるので、栄養や情報を取り込むとかじゃないよね。
----ぜんぜん時代の流れや社会の状況とは関係ない、自分の命のそばの、すごく個人的な大切なところにそっとある感じ。
土井川 うん、大元はね。根っこはそこにある。
----いいですねえ。すごくいい話が聞けた気がします。
土井川 これインタビューになっているんでしょうか(笑)
----大丈夫だと思います(笑)。ありがとうございました。
(2009年3月15日、下北沢フェアグラウンドにて。聞き手:西垣、青木、知識)
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土井川まり
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